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カウデン症候群 一般の皆様へ

カウデン症候群は、皮膚、粘膜、乳房、甲状腺、子宮内膜、消化管、脳などの様々な臓器に過誤腫性病変を多発する症候群で、稀な疾患です。小児慢性特定疾病に認定されており、小児期は医療費助成などの支援が受けられます。近年PTEN遺伝子の先天的な変化が原因であることが明らかになり、PTEN(ピーテン)過誤腫症候群という病名が使われるようになってきました。私たちは、カウデン症候群/PTEN過誤腫症候群の小児から成人の患者さんが、適切な医療を受けながら日常生活を送っていただけるように、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)を交付いただき活動しています。

同じ病気であっても、発症の年齢や腫瘍ができやすい部位そして全身の合併症などはお一人ずつ違います。定期的に病院で検査を行い、本疾患で発症リスクが高いとされる乳腺,甲状腺,子宮,腎臓,大腸などの腫瘍の検診が重要です。学校・職場・家庭での生活においては特別な制限はありません。

近年、本疾患の原因となる遺伝子の先天的な変化が明らかになりつつあります。患者さんの遺伝子の変化は、家系内で世代を超えて受け継がれることがわかってきており、遺伝カウンセリングが大切になります。

本研究班のホームページでは、カウデン症候群/PTEN過誤腫症候群の患者さんの受け入れが可能な医療機関をお示ししています。また、「小児・成人のためのCowden症候群/PTEN過誤腫症候群診療ガイドライン(2020年版)」のクリニカル・クエスチョンについて、一般の皆様に向けた解説を紹介しています。
カウデン症候群/PTEN過誤腫症候群の診療に関し、お問い合わせ等があれば、ホームページに記載されている研究代表者宛にご連絡をください。

診療ガイドラインで推奨されている検査や治療の解説

出典:高山哲治、他 小児・成人のためのCowden症候群/PTEN過誤腫症候群診療ガイドライン(2020年版)
   遺伝性腫瘍20:93-114,2020.

<本書を参照される際には以下についてご注意ください>

診療ガイドラインとは、これまでに国内外で発表された医学論文に基づき、その時点での標準的な検査や治療を示すものです。新しいエビデンスの蓄積によって、標準的な検査・治療法は進歩する可能性があります。また、同じ病気であっても、お一人ずつ患者さんの病状は異なり、最善と考えられる検査・治療が診療ガイドラインの推奨と違うこともあります。患者さんの個別の診療については、主治医の先生と十分に相談されることが大切です。

クリニカルクエスチョン1

CQ1 Cowden症候群/ PTEN過誤腫症候群に関連する皮膚粘膜病変を認めた場合、皮膚科専門医による診察は推奨されるか?

カウデン(Cowden)症候群/PTEN過誤腫症候群では、顔面、手足の甲、手のひらや足の裏の皮膚に病変(正常色の小さなぶつぶつ)が出来ます。
また、口の中、歯茎や唇などの粘膜にも病変(白い小さなぶつぶつ)が出来ます。このような場所の皮膚粘膜病変が特徴的でほぼ必発し、多くは10歳~20歳代に生じるため、早期診断に重要です。
顔面の病変は、顔面の中央部(眼、口、鼻、額)に生じる5mmまでの病変で、組織学的(医学的には)には外毛根鞘腫(がいもうこんしょうしゅ)という良性の病変を示すことが典型的とされています。見た目だけでは、線維毛包腫(せんいもうほうしゅ)、毛包上皮腫(もうほうじょうひしゅ)、毛盤腫(もうばんしゅ)などの他の良性の病変と区別することが難しいため、少なくとも1ヶ所は皮膚を生検(病変の一部を採取)し確認する必要があります。若い方は典型的な外毛根鞘腫の組織像を示すことが少ないため、複数ヶ所の生検を行うことも提案されています。

その他、粘膜皮膚神経腫(ねんまくひふしんけいしゅ)、脂肪腫(しぼうしゅ)、血管奇形(けっかんきけい)、線維腫(せんいしゅ)、陰茎(いんけい)の色素斑(しきそはん)が生じることもあります。日本人患者における皮膚がん発症リスクは不明です。
これまでの症例報告をまとめると、以上のような皮膚粘膜病変を適切に診断することが重要です。
これらの皮膚粘膜病変が疑われる場合には、皮膚科専門医を受診することが推奨されます。

クリニカルクエスチョン2

CQ2 Cowden症候群/ PTEN過誤腫症候群の消化管ポリープを切除することは推奨されるか?

カウデン(Cowden)症候群/PTEN過誤腫症候群では消化管にポリープが発生することが知られています。ポリープには、良性のものやがん化に関与するものまでが含まれています。これまでの報告では、大腸がんの発生が2~15%と報告されています。したがって、内視鏡的にがん化のリスクのあるポリープは切除することでがんの発生を予防できる可能性があります。大腸がんの発生年齢の平均が40歳半ばとされていますので、30歳後半からがん化のリスクが増加するものと推測されます。がんの予防や早期発見のために35歳以降に大腸の内視鏡検査を行うことが勧められています。海外のガイドラインでは近親者に40歳以下での大腸がんの方がいれば5~10年早めての検査が推奨されています。

検査は、ポリープの数や組織によってがんの発生リスクが異なりますので過誤腫や腺腫成分のあるポリープや多発例では、1~2年毎、腺腫のない多発ポリープ例では3年毎、ポリープを認めなければ5年毎施行することが目安となっています。上部消化管に関しては十二指腸ポリープがあれば2~3年毎の検査が推奨されていますが、小腸に関しての指針は出されていません。
強いエビデンスとして推奨される文献はありませんが、本症では大腸がんの発生リスクが高いと考えられますので内視鏡的にリスクがあると考えられるポリープは切除することが推奨されます。

クリニカルクエスチョン3

CQ3 Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群における乳房のサーベイランスは推奨されるか?

カウデン(Cowden)症候群/ PTEN過誤腫症候群は比較的稀な疾患であるため、その乳がんリスクに関する報告はかなり少ないのが現状です。カウデン症候群の女性では、 30歳頃から発がんリスクが上昇し、生涯の乳がん発症リスクは25~85%とされています。報告によりかなりばらつきはありますが、乳がんの発症リスクが高いことは確実です。

乳がん検診の方法としては、カウデン症候群より乳がんリスクの高い「遺伝性乳がん卵巣がん」の推奨内容に準じて、「18歳から乳房自己検診開始する。25歳または家系内で最も低い乳がん発症年齢の5~10歳前(いずれか早い方)から、6~12か月毎の問診・視触診を開始する。30~35歳または家系内で最も低い乳がん発症年齢の5〜10歳前(いずれか早い方)から年1回のマンモグラフィまたは造影剤(ガドリニウム)を用いたMRI検査によるスクリーニングを開始する。」ことを推奨します。

クリニカルクエスチョン4

CQ4 Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群が疑われる症例にPTEN の遺伝学的検査は推奨されるか?

PTENと呼ばれる遺伝子はカウデン(Cowden)症候群/PTEN過誤腫症候群の原因となる遺伝子であり、PTEN遺伝子の病的バリアント(病気が発症する原因となる遺伝子の配列異常)を有する人は、診断基準を満たさなくても本症候群と診断されます。

PTEN過誤腫症候群では、乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がん、腎細胞がん、大腸がんなどの発症リスクが高いことから、定期的に検査を受けることが推奨されます。PTEN過誤腫症候群には、カウデン症候群、バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群、プロテウス様症候群、プロテウス症候群などが含まれます。

PTEN過誤腫症候群は、年齢により症状の出現がやや異なり、成人ではカウデン症候群の症状が揃うことが多く、小児では特徴的な症状からバナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群と診断されることがあります。このように、カウデン症候群が疑われる患者さんに対するPTENの遺伝学的検査は、PTEN過誤腫症候群であるのかどうかを調べるために、また、PTEN過誤腫症候群であればがんのサーベイランスへの活用のメリットを考慮して推奨されます。

また、血縁者の方におけるPTEN過誤腫症候群の診断や発がんリスク、適切なサーベイランスという観点からも推奨されます。ただし、PTENの遺伝学的検査を行うときには、検査の感度や限界などの正しい情報を提供し、適切な遺伝カウンセリングを行ったのち、インフォームド・コンセントを得て行うことをおすすめします。