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若年性ポリポーシス 症候群 一般の皆様へ

若年性ポリポーシス症候群は、消化管に良性の過誤腫性ポリープが多発するポリポーシスを特徴とする、稀な疾患です。小児慢性特定疾病に認定されており、小児期は医療費助成などの支援が受けられます。私たちは、若年性ポリポーシス症候群の小児から成人の患者さんが、適切な医療を受けながら日常生活を送っていただけるように、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)を交付いただき活動しています。

同じ病気であっても、発症の年齢やポリープができやすい部位などはお一人ずつ違います。ただ、すべての患者さんにおいて、『定期的に消化器内視鏡検査を行い、ポリープを内視鏡で治療する』ことが大切です。若年性ポリポーシス症候群の消化管ポリープは良性ですが、一部の患者さんでは消化管の悪性腫瘍を合併することがあります。また、血管病変を合併される患者さんもおられます。
定期的に病院で検査や治療を要しますが、基本的に学校・職場・家庭での生活は通常通り行っていただくことができます。

近年、一部の患者さんでは病気の原因となる遺伝子の先天的な変化が明らかになりつつあります。患者さんの遺伝子の変化は、家系内で世代を超えて受け継がれることがわかってきました。患者さんが高校生になる頃から、遺伝カウンセリングをおすすめします。

本研究班のホームページでは、若年性ポリポーシス症候群の患者さんの受け入れが可能な医療機関をお示ししています。
また、「小児・成人のための若年性ポリポーシス症候群診療ガイドライン(2020年版)」のクリニカル・クエスチョンについて、一般の皆様に向けた解説を紹介しています。
若年性ポリポーシス症候群の診療に関し、お問い合わせ等があれば、ホームページに記載されている研究代表者宛にご連絡をください。

診療ガイドラインで推奨されている検査や治療の解説

出典:松本主之、 他 小児・成人のための若年性ポリポーシス症候群診療ガイドライン(2020年版)
   遺伝性腫瘍20,79-92,2020.

<本書を参照される際には以下についてご注意ください>

診療ガイドラインとは、これまでに国内外で発表された医学論文に基づき、その時点での標準的な検査や治療を示すものです。新しいエビデンスの蓄積によって、標準的な検査・治療法は進歩する可能性があります。また、同じ病気であっても、お一人ずつ患者さんの病状は異なり、最善と考えられる検査・治療が診療ガイドラインの推奨と違うこともあります。患者さんの個別の診療については、主治医の先生と十分に相談されることが大切です。

クリニカルクエスチョン1

主CQ1 若年性ポリポーシス症候群が疑われる症例における確定診断をどのように行なうか。
副CQ1-1 若年性ポリポーシス症候群の家族歴のある無症状の症例に、本症の診断のために遺伝学的検査(発症前診断(リスク保有者診断))または内視鏡検査、血液検査(貧血・低アルブミン血症)・便潜血検査を行なうか?どの検査を、いつ行なうのか?

若年性ポリポーシス症候群の確定診断には、若年性ポリープの病理組織学的所見に合致する消化管ポリープの同定が必須となります。よって、若年性ポリポーシス症候群が疑われる患者さんでは12〜15歳に内視鏡検査を行うことをお奨めしています。一方、若年性ポリポーシス症候群と診断された患者さんではSMAD4やBMPR1Aの病的バリアント(病気が発症する原因となる遺伝子の配列異常)が認められます。

しかし、病的バリアントの検出率は低く、どこに病的バリアントがあるかによってポリープやがん、あるいはポリープ以外の合併症がよりできやすくなるというようなことはなく、それを調べることにより患者さん本人に対する利益は大きくはありません。一方、内視鏡検査で若年性ポリポーシス症候群が疑われるものの、若年性ポリポーシス症候群の臨床診断基準を満たしていない場合、遺伝学的検査を行うことで確定診断にいたることがあります。

また、患者さんの病的バリアントが分かっていれば血縁者が若年性ポリポーシス症候群であるかどうかを遺伝学的検査で調べることがより簡単にできますので、その意味では遺伝学的検査を行う意味はあります。
現在のところ、若年性ポリポーシス症候群に対する遺伝学的検査は保険適用となっておらず、自費診療になります。

クリニカルクエスチョン2

主CQ2:若年性ポリポーシス症候群において消化管ポリープ及び消化管悪性腫瘍のサーベイランス、治療をどのように行なうのが良いか。
副CQ2-1:若年性ポリポーシス症候群の消化管ポリープ及び消化管悪性腫瘍のサーベイランスはどのような方法、頻度で行うことが推奨されるか?
副CQ2-2:若年性ポリポーシス症候群のポリープにはどのような治療が推奨されるか?(内視鏡治療・外科治療・薬物治療の適応は?)

若年性ポリポーシス症候群では、消化管悪性腫瘍のなかでも胃がんおよび大腸がんが比較的若年で発生するリスクが高いとされています。そのため、若年性ポリポーシス症候群と確定診断されている患者さんでは、12歳頃より年1回の下部消化管(全大腸)内視鏡検査と1〜3年毎の上部消化管内視鏡検査を行うことをお奨めしています。ただし、症状がある場合にはより早期に内視鏡検査による評価を開始することが望ましいです。

若年性ポリポーシス症候群でみられるポリープに対する薬物治療はなく、5mm以上のポリープでは内視鏡検査で切除することをお奨めしていますが、多数のポリープを有する患者さんでは全てのポリープを内視鏡検査で切除することは困難です。がんを合併している患者さんではがんの病期に応じた治療が必要となります。

また、胃にびまん性にきわめて多くのポリープが発生し、鉄欠乏性貧血や低アルブミン血症を伴う患者さんでは胃がんの発生リスクが高いとされ、予防的胃切除術を検討する必要があるとされる患者さんもいます。

クリニカルクエスチョン3

若年性ポリポーシス症候群において消化管外病変のサーベイランスと治療はどのように行なうのが良いか?

若年性ポリポーシス症候群では、遺伝性出血性毛細血管拡張症、中枢神経疾患、心血管疾患など消化管以外の疾患を合併する場合があります。特に、遺伝性出血性毛細血管拡張症を合併している患者さんでは大動脈病変を認める場合があり重篤な合併症が出現する可能性もあるため、1年毎の心血管系の検査を行うことをお奨めしています。

また、SMAD4に病的バリアント(病気が発症する原因となる遺伝子の配列異常)を有する場合には遺伝性出血性毛細血管拡張症の合併がみられるとされることから、その点ではSMAD4の遺伝学的検査を行う意味はあります。ただし、若年性ポリポーシス症候群および遺伝性出血性毛細血管拡張症に対する遺伝学的検査は保険適用となっておらず、自費診療になります。

若年性ポリポーシス症候群に合併する消化管以外の病変のサーベイランスおよび治療法については、強いエビデンスとして推奨される報告はありません。